キリア&ドーム銘板

幕間劇 最高の職業

 俺の名はボーンブラスト。名乗りを上げることがその人物について何かを語ることになるなんて、俺は思っちゃいない。だから少しばかり補足する。
 俺はかってマフィアの会計士をやっていた男だ。まあ、確かにちょっと失敗したことは認める。だが目の前に大金が眠ったままになっているんだ。少しばかり投資してみたくなるのが人情ってもんだろ?
 そこにあの国で例の大地震だ。何もかも吹っ飛んだね。安全なはずの投資が、一瞬で不良債権に化けちまった。
 地震が起きるなんていったいどこの誰が予測できる?
 その日のうちに逃げたよ。ボスにはすべて大丈夫お任せくださいと電話をして、そのままバスに乗った。
 そのまま最後まで逃げ切れるなんて、本気で思ったわけじゃない。でも整形する前に見つかるとは思わなかった。俺は深夜の街を裸足で逃げた。
 マフィアどもに三回撃たれたところで、俺はこの世界に居ることに気がついた。

 そうさ、俺は記憶を失っていない。キリアに言わせると俺のようなケースは珍しいそうだ。
 もっともその事はキリアには言ってない。あの爺さんに纏わりつかれるのは嫌だ。もし俺が他の世界の記憶を持っていることがわかれば、キリアなら俺の頭を切り開いて調べ始めかねない。そんなことになるのはまっぴら御免だ。


 ここは奇妙な世界だ。剣と魔法の世界。それも何だかひどく歪んだ普通じゃない世界だ。経済活動と生産活動の大部分は地下迷宮に依存している。冒険者が幅を利かし、まるで冒険そのものが目的かに思われる世界。こんな世界が存在するとは呆れかえったもんだ。
 俺はこの世界でビショップという職業についた。
 ビショップという役は、戦士と魔術師と僧侶の混合した職業だ。どの魔法も少しづつ使え、メイス系の武器を持つことができる。能力としてはオールマイティで、だからこれを選んだ。

 大失敗だった。

 三種の役割の混合とは、言い換えればどの能力も二流以下ということだ。戦士としては中途半端。魔術師と僧侶としては大した呪文を使えない。つまり役立たずってことだ。
 だが、ビショップには聖別という大きな技がある。聖別というのは、地下迷宮で出たアイテムの類の正体を調べる能力。ボルタックの店でも聖別サービスはやっているが、値段がバカ高い。だいたい、そのアイテムの売値と同じ値段を要求する。だから戦利品で儲けようと思うなら、ビショップが必ず必要になる。
 この一点で俺には価値があり、何とかこの世界で生きていくことができた。

 あの時までは。


 いつもより無理して深く潜ったダンジョン。そこで俺の加わったパーティは激戦の末、一つのアイテムを得た。それは何かの魔法の手袋で、きっと凄い値段で売れるだろうと思えた。もちろん俺はその場で聖別を行ったよ。
 呪われたアイテムだと分かったときはすでに手遅れだった。そいつは俺の手に自ら張り付いていた。
 どうしても取れなかった。ボルタックの店に戻り、呪いを解除するための値段を聞いて、俺たちは絶望の呻き声を上げた。天文学的と言っていい値段だったんだ。仕方なしに俺はその手袋を嵌めて過ごすようになった。
 すぐにその呪いがどんなものかはわかった。
 痛いんだ。この手袋。つけていると手がひどく痛む。そして何かをやるたびに妨害をする。魔法も戦いも、この手袋をつけている限りうまくいかない。もちろんそうだ。だからこそ呪われたアイテムと言うんだから。
 やがてパーティは俺を冒険から外すようになった。当たり前の話だ。命賭けの冒険に、やることなすことドジばかりのメンバーなんか入れられるわけがない。だがひどい話だ。冒険のリスクを俺一人に押し付けていることになるのだから。
 意を決した俺は、呪われた手袋がついたままの自分の腕を切り落としてもらった。そして完全回復呪文のマディを掛けて貰った。
 ムダだったよ。回復した手に、相も変わらず呪いの手袋は嵌まっていたのだから。
 その後いろいろと無茶な試みをしてみたが、すべてムダだった。正面から呪いを解除する以外にアイテムを外す方法はない。
 俺は自分が袋小路に追い込まれたことを悟った。
 呪いを解くには金が要る。だが金を稼ぐには冒険に行くしかない。だが、呪われている間は冒険に行けない。デットエンドだ。
 たまにそのパーティは戦利品の聖別に俺を雇ったよ。一日だけ雇い、先の冒険で手にいれたアイテムの聖別だけを行なわせ、また放り出すんだ。だけどそんな些細な手間賃だけじゃどうにもならない。食っていくのだけはかろうじてできたが、呪いから解放されることはない。
 冒険に出るしかない。何としても。
 俺は旅に出た。
 いくつもの町を巡り、俺のことを知らない奴らを探した。俺を疑わずにパーティに加えてくれる奴らを。
 自分でも諦めかけていた頃、ようやくキリアのパーティを見つけた。
 キリアのパーティは強いパーティだった。四人構成ながら、ドームを除く三人は魔法を使え、さらに三人は戦士として前衛に出ることができる。いわゆる複合職のパーティでなおかつハイレベルのベテラン揃いであった。戦士を一人失ったばかりで、新しいメンバーを探していた。
 お蔭で俺の未来にも光が差した。
 俺はキリアもドームもシオンも月影も大嫌いだ。ウマが合わないと言うべきか。心の底から嫌いだ。向うも俺を嫌っていたが、聖別の能力は貴重だった。


 そして俺はここに居る。

 俺は呪われていることを隠して冒険に出る。冒険なんか大嫌いだ。金は大事だが、そのために命まで賭けるものじゃない。
 マフィアの金は冒険じゃなかったのかって?
 あれは安全な投資だった、はずなんだ。ただ俺の運がひどく悪かっただけで。

 後二年も金を貯めれば、この手袋とも別れることができるだろう。それまでに死んだりしなければ。
 その後どうするかはまだ決めていない。だけどこの世界にも会計士は必要だろう。どの宇宙でも、どの世界でも、会計士無しではうまく立ち行くわけがないのだから。
 冒険者を辞めれば、きっとまた俺は会計士に戻ることができるだろう。

 俺の名はボーンブラスト。このウィズ世界で唯一の会計士候補だ。