キリア&ドーム銘板

ウィザードリイ大学市民講座
 特別講師キリア・イブド・メソの講演より
(3)

【ダンジョン。その存在理由(速記者による注釈付き)】

 ウィザードリイ世界での冒険が進むにつれて、諸君は次の不思議な現象に気がつくであろう。
 すなわち… 何故、倒したはずのワードナーが再び出現するのか?

 何故、新米の冒険者をパーティに含めると、一度起きたはずのイベントが再び起きるのか?

 これではまるでダンジョンが冒険者のバックパックの中の「ブルーリボン」等を検査してモンスターやイベントの発生を制御している様ではないか?

 ※図表を見せながらイベントについて説明すること。一般人はどういうわけか数式が嫌い。

 この問題は長い間、WIZ大学長老評議会で議論されてきたが、近年、この評議会の名誉会員であるキリア・イブド・メソ老により正しい解答と思われるものが提起された。次の様なものである。

(「おいおい、キリア。それじゃあ自画自賛だぞ。」
 「黙っておれドーム。何時も最前列で酔っぱらって、居眠りしおって」
 「無理に出席させているのは、じいさん、あんただぜ」
 「しょうがないじゃろう。出席者が少ないのじゃから」
 「退屈な講義よりは冒険の方が面白いからな」
 「それが冒険者の生還率が低い原因じゃ」)

 ・・・我々のこの世界は、真の意味ではギルガメッシュの酒場(定員二十名)を中心としたわずかな空間のみが実体を持つ。この空間はダンジョンや神秘の山、そしてどこからともなく生じまた消えて行く冒険者達の交流の中心であり、実在する唯一のものなのである。魔法一般相対論に従い、正しい実在質量を持った存在はその周りに、限定された物理法則を持った複数のサブ世界を影として生成する。これらのサブ世界の存在により不安定な我々の世界の物理法則はバランスが保たれ、安定するのである。

(このキリア老の理論は、現在のウィズの世界を構成する物理法則を正確に記述できることが確かめられた。キリア老はこの他に太陽の構成原理についても斬新な理論を展開している。太陽はティルトウェイトにより光と熱を供給すると言うものである。
 ティルトウェイトの熱と光は長い空間を通る内に個々の光の速度差により平均化され、現在我々の見ている安定した光と熱の供給源になるらしい。この論理には更にキリア老により重大なコメントが示唆されている。すなわち、もし個々の光子の速さが一定ならば魔法を成り立たせる根本法則が働く余地は無くなり、我々の世界はもっと穏やかな、そして詰まらない世界になるであろうと)

 ダンジョンの議論に戻ろう。

 この理論によると、ダンジョンは無限の状態を持つ可能性として存在しているらしい。平常の状態ではダンジョンは質量を持たない。ダンジョン内に冒険者が侵入することで、ダンジョンは冒険者の状態に合わせた可能性へと結合し、その瞬間に質量を持つわけである。

 ダンジョン内で冒険者が死んだ場合などには、彼らの死体の質量のためにダンジョンは無限の可能性に分散することはできなくなる。つまり次回に冒険者がダンジョンに侵入した時には死体がきちんと発見されるわけである。この死体が残された時点で、ダンジョン全体の疑似質量と冒険者一人分の死体の質量を計測すると、驚くべきことに死体の質量の方が桁違いに大きいのだ。そのため、死体を中心にダンジョンは霧の様に流動し、結果として次に死体が見つかった場合には、死体の位置が変わっていることになる。つまり、これは死体が動いたのでは無く、ダンジョンが動いたのである。
 このダンジョンの分散状態のことを我々は確率ダンジョン雲と呼んだ。確率ダンジョン雲は観測に従い、その姿を変えることが判っている。これは大いなるパラドックスを含むのではないかと予想されているが、現在の所は未解決である。
(こらドーム。いびきをかくんじゃない!)


 冒険者がダンジョン内で拾う各種のアイテムは冒険者自体の質量を実体として影の様に疑似質量を持った疑似構成物質であることは間違いない。不注意な帰還呪文ロックトフェイトなどは真の質量にのみ作用するので、しばしば多くの装備がテレポートされない羽目に陥る。ダンジョン内に残されたアイテム、あるいは冒険者が一度捨てたアイテムが位置を動いてもいないのに回収不能になるのは(観察して貰えば判るのだが)これらの疑似質量が分散してしまうためなのである。
 この現象はモンスターにも適用される。倒したモンスターの死体でダンジョンが腐臭に塗れないのは、倒したモンスターの殆どが単純に消滅するためなのである。
 でなければ、固いアーマーイーター等の死体を誰が食べたりするものか?

 結局、もっとも我々の状態を良く表すパラダイムとしては、侍達がこの世界に持ち込んだ玩具である『やじろべえ』を思い浮かべて頂きたい。中心の胴体がギルガメッシュの酒場を中心とした我々のエリア、その両方に伸びてバランスを取るおもりがダンジョンなのである。ダンジョン無ければ、我々の世界も無し。これが真理である。


    御静聴を感謝する。   ---キリア・イブド・メソ

※ちょっと短いか?
 まあ、よい。この辺りで視聴者はすべて寝ておる。寝てなければ睡眠魔法で寝かすのも、ありじゃの。
 視聴者が寝たとしてもお代を返す必要はないからのう。