仔ライオン銘板

第一話:仔ライオンたちの憂鬱

 昔、昔のそのまた昔。
 などということは言いません。これは現代のお話です。でもどこのお話かは秘密。仔ライオンたちが密猟されたら困りますからね。

 ある所に、巣穴があり、その中で仔ライオンたちがぬくぬくと暮らしていました。
 お母さんライオンは毎日獲物を狩りに外へ出かけ、そのためか監視もなく育った仔ライオンたちは巣穴の中でやりたい放題し放題の日々を送っていました。
 でもそんな日常の中、危機は仔ライオンたちのすぐそばにまで忍び寄っていたのでした。

 そう。そう。その通り。賢いあなたの予想した通りです。
 食っちゃ寝の毎日で仔ライオンたちはぶくぶくと太り、ついには巣穴の出口から出ることができなくてなってしまったのです。
 これには仔ライオンたちも困りました。
「そうだ、良い手がある!」
 いつでも何でも思いつきで行動する次男坊の仔ライオンが言いました。
「出口が駄目なら、入り口から出ればいいんだ!」
 なんという発想の転換でしょう!?
 他の仔ライオンたちもこの意見に賛成し、大急ぎで巣穴の入り口を探しました。そしてその結果、巣穴の入り口が実は出口でもあり、出口から出られない以上、入り口からも出ることはできないのだという結論に達したのです。
「うーん、なんてひどい、手抜き建築なんだ」仔ライオンたちは頭を抱えました。

 そのとき頭を抱えていたのは神々も同じです。仔ライオン救出のための会議が、この世界のどこかで密かに行われました。もちろんその会議は秘密で行われたので、出席者とその他諜報組織に所属する一人以外は誰も知ることはありませんでした。

 その秘密会議で出た救出案は次のようなものでした。
  1)仔ライオンたちは今後モグラとして生きる。
  2)仔ライオンたちにダイエットを強要する。
  3)巣穴の出口を広げる。
  4)謎の宇宙人に助けてもらう。
 満場一致で、4番の案が採決されました。そうです。神々もこの穏やかな日常には退屈していたのです。

 悩む仔ライオンたちの前に、謎の宇宙人が出現しました。
「われわれは、うちゅうーじんだ!」
 宇宙人だけにできる特殊なアクセントと間延びした言い方で、謎の宇宙人は言いました。
「お前たちを助けーてやろう。その代わりに、こちーらの頼みも聞いてもらいたい」
 仔ライオンたちに選択の余地はありません。
 こうして、仔ライオンたちの危機は去り、巣穴にふたたび平和が訪れました。

 謎の宇宙人たちはどうしたのかって?

 彼らは仔ライオンたちの鼻の穴の中に、地球征服のための前進基地を作り、今でも花粉症の季節には、元気に目一杯、地球を征服しようと働いているのです。