業が渦巻く怪談銘板

業が渦巻く:要らない奇跡

「奇跡です」
 大袈裟に騒ぎながら会報が回る。会報に載っていたのは真っ黒な中に黄色い部分があり、その中心に宝塔が載っている写真である。
 宝塔とは会員が勤行をするときに座の中心に据える道具で、陶器でできた小さな封印された塔である。その中には小さな仏様が入っているとの触れ込みで粗末に扱うこと厳禁となっている。
 会員の中にもいる見える人によると、勤行を開始すると小さな光の塊が無数にこの宝塔に集まって来るとのことである。

 会報の説明文を読む。
 いわく、火事で自宅が全焼した。全焼した中で宝具を中心に三十センチの範囲が綺麗に丸く焼け残った。これぞ奇跡だ。
 そういう内容であった。
 確かに、背景の畳も周囲の柱も真っ黒に焼け落ちている。その中で、宝塔の置いてある周囲の畳だけがまったくの無傷で残っている。まるで宝塔が熱遮蔽のバリアを張ったかのようだ。

 しかし、これは・・・。

 宝塔のお陰で火事が食い止められたというならまだ判る。しかし家自体は全焼なのだ。宝塔とその周囲だけが焼け残ったからと言って、じゃあ良かったねの言葉が出るものかどうか。

 奇跡は奇跡に違いないが。

「要らないね。こんな奇跡」
 思わず感想を漏らすと、その場にいた全員が頷いた。