日々これ怪異銘板

日々これ怪異 通りゃんせ

 母方の叔母は奈良の山側に住んでいた。新興住宅の一角である。
 その通りの住人には一つ悩みがあった。
 死の連鎖が止まらないのである。

 一区画にずらりと並ぶ分譲住宅。街並みの向うには遠くに海が見え、反対側には小高い丘がある。ビルは殆どない。夢の一戸建てが並ぶ、だけど奈良の中心までは電車で1時間ぐらいかかる通勤圏ぎりぎりの場所である。
 何の因縁があったのか、その一部から死の連鎖が始まった。まず角地にあった家から死者が出た。どのような死因かは不明だが、葬式の弔問幕が張られ、その家はしばらく喪に服すことになった。
 次の年、その隣の家から葬式が出た。まだこの時点では、誰も怪異が始まっていることには気が付いていなかった。
 そしてその次の年、さらにその隣の家から死者が出た。この辺りから町内は騒ぎ始める。予想は当たり、さらに次の年、死の連鎖はまたもや隣に移った。
 一年毎に死者が出る家が隣に移る。まるで回覧板のようにだ。次の順番に当たった家は冗談ごとじゃない。これを偶然の一致と笑い飛ばす度胸のある人間がいるものか。必死の抵抗にも関わらず、やがて次の犠牲者が出る。とうとう最後に、一列に並ぶ八件の家すべてが順に死者を出すことになった。そこで一区画分は終わりだ。
 どれも病死や事故死、老衰死。警察が動くような事案ではない。だが、ここまで来れば、死神がその通りを闊歩していることは明らかだ。
 さあどうする?
 自分が次の順番の家に住んでいるとしたら。
 せっかく建てた夢のマイホームを売りとばしてどこかに逃げるのか?
 それとも奇跡が起きることを信じてその場に留まる?
 ただの思い込みと笑い飛ばすのか?
 一年を年限に、見知らぬ誰かに家を安く貸す?
 もし空き家にしたら、死神は移動先にまで追って来るのか?
 それとも一軒飛ばして次へ進むのか?
 いずれにしても修羅場である。

 その次の年は、死の直線の先にある、通りを隔てた家かと思われていた。だが、実際に死んだのは最後に死者を出した家の向かいの家だった。つまり死の連鎖は折り返したのだ。
 そこからは立て続けに五人が死んだ。通りに残るのは後三件の家。
 残念ながらその先は知らぬ。聞く機会を失ってしまった。

 死の連鎖はどこへと延びたのだろうか?
 おじさんが死んだのはその理由だったのか?