未だ終わらず怪異銘板

未だ終わらず カクレンボ

 私の部屋の器物は九十九化するのが早い。
 そしてこういった器物がやることと言えばカクレンボと相場が決まっている。

 ひょいと置いたものがすぐに無くなる。
 ポトリと落とした物が絶対に見つからない。

 そして探すのを諦めたとき、御免ねと言ってひょいと現れるのだ。それまで何度も探したところから。
 実にイライラする。
 こういうときにそのモノが予備があるものの場合、徹底的に破壊して捨てることにしている。
 一度私とカクレンボを始めた器物は何度でも繰り返すためだ。

 探すときはまず普通に探し、それから脅し文句を言うようにしている。今出てくるなら許してやる。これ以上カクレンボするなら見つけ次第に壊して捨てる。
 それでも出ないと、次は真言を唱えながら探す。大概はここで見つかる。
 さらに質が悪いとどうしても出てこない。そういったものは探すのを止めて新しいのを買う。ここまで来た器物は新しいのが届く直前に出てくる。

「えへっ。御免ね」

 こういったものは許さず、予備が届き次第に見せしめとして壊す。

 器物が使っているのはもっとも術力を必要としない隠形法の一種だ。すなわち、持主が右を探しているときは左に転がった世界線に所属し、持主が左を探しているときは右に転がった世界線に所属する。大概の妖かしはその存在の基本的な原理としてこの世界線選択能力を持っているので、一見この大変そうに見える処理をごく普通に行えるようだ。
 この場合、転がった器物が存在できるのは本来の物理法則に従ってあり得る範囲に収まることになる。床に転がったものが棚の上には存在できない。エネルギー保存則のは逆らわないのだ。

 今までで一番大変だったのは会社の実印である。
 二年間探し回った挙句、どうしようもなくなり新しい実印を作った。明日法務局に行って印鑑更新の手続きを行おうという前夜、二年間数百回探し回った足下に転がっていたのには脱力した。

「えへっ。見つかっちゃった」
「見つかったじゃねーよ!」

 新しい印鑑もあるし、その場で壊そうとも思ったがなにせここの法務局はひどく不便なところにある。仕方なしに例外として、今も私の机の中には二個の実印が納まっている。